夏の初めに東京オペラシティのギャラリーで開催された『宇野亞喜良展 AQUIRAX UNO』。
https://www.operacity.jp/ag/exh273/
私が彼の作品に出会ったのは、アンパンマンの作者として知られる、故やなせたかしさんが編集長をつとめられていた『詩とメルヘン』という雑誌でした。
『詩とメルヘン』は1973年から2003年までに通算385号まで刊行された文芸雑誌です。
「読者層は十才から九十才ぐらいまで」を対象、一般の読者が投稿した作品にプロのイラストレーターが絵をつけるという読者参加型の雑誌でした。
表紙はもちろん、やなせたかしさんの作品。一般読者の作品だけでなく、やなせさんの詩やメルヘン、童謡が掲載させている時期もありました。
どのページも美しく、雑誌とはいえとても簡単に捨てられるものではなく、絵本か図録をめくるようにゆっくりと眺めたくなる、そんな作品集です。
対象が10歳から90歳と謳っている通り、我が家では母が20代に買い集めていたものを、小学生に私が愛読し、40代になった母と一緒に新刊を購入するというかたちで私たちの共通の趣味・宝物となっていました。
「この本はちょっとふしぎな本です。
非常に個人的な偏見と趣味に偏してつくられています。
すべて読みやすくということが主眼で大きな活字でザックリと組みました。
読者層は十才から九十才ぐらいまでを対象にしました。
本職の詩人もいますが、大部分は全くの無名の人の詩を、ガリ版刷りの同人誌や、手描きの詩集からひろいあつめました。
この本ははじめからものすごく大量に売れることはないと覚悟して、わがままに自由につくってありますが、
それでもできるだけのぜいたくをしました。
商業主義に毒されたくはありませんが、全く売れなければ一号だけでつぶれます。
一万部売れれば収支トントンで次号がだせます。
さて、どうなりますことか。あなたは買いますか?」(『詩とメルヘン』創刊号編集前記より)
https://anpanman-museum.net/guide/marchen.html
香美市立やなせたかし記念館HPよりこの雑誌の中で、宇野亞喜良さんの絵を見たのが、彼の作品との初めての出会いでした。
つまり私は小学生だったので、この出会いがそんなに衝撃的だったかは覚えていません。
ただ私の見ている世界には既に存在していた。そんな印象です。ですので、私は懐かしい思いで、今回の展示に足を運びました。
会場は老若男女、多種多様な人で溢れていました。
コインロッカーでお近くのだった高齢男性同士の会話
「90でこれだけ人集められるんだから大したもんだよなぁ」。
宇野さんと同業の方でしょうか。ファンキーなファッションの素敵なおじ様方でした。
おっしゃる通り、90歳でこんなにも幅広い年齢層、立場も全く違いそうな客層が集まる展覧会も珍しいのではないかと感じました。
展示作品は、初期のものからごく最近描かれたもの、また雑誌の表紙や舞台衣装まで多岐に渡りました。
衝撃的だったのは、彼は若い頃から既に売れっ子だったことは言うまでもありませんが、いい意味で今も全く変わらないセンスと完成度の高さ。
これは若い頃から出来上がっていたと言うことなのか、90歳になっても何も衰えていないと言うことなのか。衰えるどころかますます魅力的で惚れ惚れする作品の数々でした。
彼の作品は常に時代の最先端を行き、アート業界のみならず、人々の感覚を引っ張ってきたのではないでしょうか。
それと同時に、多くの人が彼に対してそれぞれの想いを持っているんだなぁ、と感じた展示でした。
こんなにも様々な年齢のバラバラの立場の人が、それぞれの楽しみ方で展示を観て、思い出に浸ったり、刺激をもらったり、勉強したり。
その様子もとても楽しく、エネルギーと愛に溢れた展覧会は本当に素晴らしいと思いました。